【特集】中国、魏則西事件:滑膜肉腫の大学生の死が大きな波紋-バイドゥ―株暴落、医療機関・軍を巻き込む事態に発展

weizexi incident


今年の4月12日に、21歳で亡くなったある男子大学生の死が大きな波紋を呼んでいます。この事件は、企業モラル、医療、軍の営利化、国家の監督責任、腐敗など中国社会の抱える問題を白日の下にさらすもので、ネットもメディアも強い関心を示しています。

まず、事件のあらましを見てみましょう。滑膜肉腫を患っていたコンピューター専攻の西安電子科学大学の魏則西という男子学生が、武警(武装警察)北京市総隊第二医院(病院)で”腫瘍生物免疫療法”を受けたものの、亡くなりました。その治療法はスタンフォード大学との共同研究と銘打ったもので、化学療法も、放射線療法も効かなかったその男子学生にとっては、最後の望みだったとのことです。(注:武装警察は、人民解放軍から派生し、中央軍事委員会の指導下にある準軍事組織です)

実はその学生は亡くなる前、「人間性における最大の”悪”とはなんだと思うか?」という文章をネット上に投稿し、以下のように記しています。その”腫瘍生物免疫療法”は実はアメリカでは効果がないとして既に行われていない、また武警第二病院は、彼がバイドゥ―(訳者注:中国ナンバーワン検索サイト)で検索した際にトップに来た病院であった、と。彼が別途独自に調べ、その治療法がそもそもハナから効果のないものだった、と知ったのは既に治療を受けた後のことだったようです。なお、スタンフォード大学も、この事件が明るみに出た後、同病院と共同研究の事実はないとはっきりと否定しています。同病院はこの療法に効果がないことを百も承知のうえで、効果があると宣伝し、末期がんの患者を集めお金を搾り取っていたのです。明らかな詐欺です。この学生は、この治療に両親のお金を20万元(約330万円)以上つぎ込んでいたと報道されています。

従来より、バイドゥ―の検索エンジンに不満を持つネット民は多く、検索結果リストの上位枠が実は広告で占められている、との疑いを多くのネット民がよく漏らしていました。(ここにおける上位とは、広告欄ではなく、検索結果自体の上位のことです。純粋な検索結果と装って、高額の広告費を支払った企業などが上位に並ぶ仕組みです。)また、軍の病院が営利に走っていることも、知る人ぞ知る事実でした。しかし、今回多くの人々が驚き、憤慨したのは、この治療を行った病院の部門が、実は武警とは全く関係なく、民間病院がその部門をまるごと経営していたという事実です。武警は単に名前と場所を貸しているだけで、配属された医師も全て、全く本来の武警病院とは無関係だったということが明らかになったのです。

この事件が報道されてからここ数日の間、事件関連の記事が数多く配信されています。微博(ウェイボー)でも#魏則西事件#の閲覧数は軽く3億を超えており、中国基準で考えてもかなり多い部類に入ります。(ハッシュタグにはいくつかバリエーションがあるので、この事件の関連記事の総閲覧数はもっと多くなります。)実に多くの人々が深い関心を寄せていることがわかります。ここでは関連記事を見ながら、この事件の背後にある深い闇の一端をのぞいてみることにしましょう。

まず、この事件に対する怒りの矛先はバイドゥーに向かいました。

「#魏則西事件#【バイドゥ―の市場価値は、一夜にして300億元(約4,900億円)以上蒸発】魏則西事件が明らかになる中で、三部門が調査グループを立ちあげ、バイドゥ―に立ち入った。バイドゥ―の株価は月曜日(5月2日)に7.92%暴落し、市場価値は合計350億人民元縮小した。JPモルガン・チェースのレポートによると、バイドゥ―の2014年の総営業収入の中で、医療広告が占める割合は15%-25%、その中で30-50%は自営・民営病院から来ている。バイドゥ―の医療広告代は、非医療業界の10倍近くに上る。」(頭条ニュースより)

引用ここまで。

バイドゥ―と民間医療機関が持ちつ持たれつであることがわかります。バイドゥ―にとって民間病院は広告代を釣り上げても払ってくれるお得意さんであると同時に、民間医療機関にとってもバイドゥ―の(検索結果を装った)広告効果は絶大で、高額を支払ってでもその集客力は魅力なのでしょう。当然病院はその高額な広告代を治療費に転嫁します。バイドゥ―非難が一巡すると、そもそも病院が問題なのでは、という声が段々と強くなってきました。

ネットメディアが件の病院にノンアポ突撃取材を行い、診療に訪れていた親子をインタビューした記事が掲載されています。

「#魏則西事件#【渦中の武警第二病院:患者が返金を求め始めている】”私の娘はネットで生物療法を捜し出した。医者は私に細胞を培養してがん細胞を殺すことができるが、一回の治療に3.3万元(約54万円)かかり、そのあと経済状況により強化治療を一回行うと(当初)告げていた。ところが(実際に治療に)来てみると、状況が違った。”最終的に魏雪は27, 260.12元(約449,000円)を返金してもらい、ガン末期の娘を連れて故郷(訳者注:湖北省)に戻った。彼女は娘が第二の魏則西になってほしくないと願っている。」(頭条ニュースより)

(訳者注:記事中の女性も魏則西氏と同じ”魏”姓ですが、偶然同姓というだけで両者には何の関係もありません)

引用ここまで。

この記事には、取材時の動画のリンクも貼られています。湖北省の農村から来たこの親子は、やはりバイドゥ―で検索してこの病院を探しあて、お金をかき集めて上京したとのこと。ところがこの事件のせいか、或いは記者が廊下で待ち構えていたからか、実際には診察室で、医師からこの治療法は効かないと告げられたとのことです。なお、動画で見るかぎりこの部門(センター)は完全に病院と一体化されていて、正式名称も武警北京市総隊第二医院生物診療中心(センター)となっています。この武警傘下の病院は、金銭と引き換えに名前と場所を提供することで、公立病院の信用を売り払った、ということになります。民間病院は武警のネームバリューと信用を利用して集客し、患者に高額の治療費を請求することで儲けていたという仕組みです。なお、このセンターは、現在診療を停止しており、親元である武装警察は調査に全力で協力するとのコメントを出しています。軍については、のちほどもう一度別の記事との関連で取り上げたいと思います。

ところで、センターを経営していた民間病院は”莆田系”と呼ばれている病院です。以前当ブログでも取り上げたことがありますが、中国では福建省莆田出身者らが経営している民間病院グループを総称して”莆田系”と呼んでおり、そのネットワークは中国全土に広がっています。中国の民間病院の80%が”莆田系”とも言われており、民間病院の代名詞となっているほどで、主に婦人科や男性科、整形外科などを展開しています。この”莆田系”、繁盛している一方であまり評判はよくないようで、医療トラブルの話もついてまわります。なお、報道によると、武警第二病院のような形で、表面上はわからない形で軍病院に”莆田系”が入っているケースは少なくないようです。当然ながら、”莆田系”病院と政府、また軍との間に、何らかの癒着や腐敗があると疑われても、おかしくないことでしょう。

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今回の事件をきっかけに、この”莆田系”の過去の”悪行”が色々と暴かれています。

「#魏則西事件#【ある医師が十年前莆田系病院に就職したが、極めて高額な処方を出すことを拒否したため、殴られた】ある莆田系に就職した医師が以前暴露したところによると、極めて高額な処方を出すことを拒絶したため、頭を殴られた。しかし、記者が調査をはじめたところ、その医師は沈黙を選ばざるを得なかった。記者は証拠をコピーさせてもらうよう何度も要求したが、断られた。その医師は、善意で記者に忠告した:この人たちの背景はとても大きい、彼らを怒らすんじゃない。」(頭条ニュースより)

引用ここまで。

”背景はとても大きい”とは、背後に大人物、大権力者がいることを意味しています。この記事、内容も十分恐ろしいですが、もっと恐ろしいのは、コメントがほとんど削除されていることです。魏則西事件に関する一連の報道においては、実は露骨なコメント削除の形跡がみられなかったのですが、この記事にかぎっては、コメントはたったの2つだけ。コメント数を示す数字は、79と表示されているにもかかわらず、です。新たな書き込みも出来ない模様です。”莆田系”の闇の深さを感じさせます。

ところで、人民解放軍に今一度話題を戻しましょう。習近平主席は2015年11月に軍隊の”有償サービス”を全面禁止する方針を打ち出しており、この事件をきっかけに、再度このニュースが取り上げられています。

「【習近平が中央軍事委員会改革工作会議における講話指示:軍隊の有償サービスを全面停止する決心を下した】軍内のどの領域に有償サービスがある?国防大学教授公方彬の分析によると、軍内のサービス事業は、例えば病院、文芸団体、出版社等のユニットであり、多くは歴史的原因によりこれらの有償サービス業務が存在する。」(財経ネットより)

(訳者注:文芸団体は、主に軍所属の歌舞団などを指します)

引用ここまで。

この演説を受けて、今年に入り改めて軍に対し、有償サービスを3年以内に全面停止するようお達しが出ています。人民解放軍がサイドビジネスで巨万の富を築いているのはよく知られた事実で、当然抵抗が予想されますが、一説には軍事費を大幅増額することを条件に、軍の利権構造にメスを入れることを軍に承諾させた、とも言われています。

今回、この事件の報道に対し、早い段階で上からストップ或いはブレーキがかからなかったのは、習近平主席のこの方針があったから、とも囁かれているようです。人民解放軍の病院が金儲けの手段として使われていることを示す格好の例、ということでしょうか。”有償サービスの停止”に向け、世論の後押しを得るいい機会と捉えたのかもしれません。

また、これは全くの推測にすぎませんが、莆田系病院に絡む利権にメスを入れることが、反腐敗運動(或いは権力闘争)に資するとの判断があったのかもしれません。

本来、軍の不祥事は共産党批判につながりかねず、当局がこの事件の隠蔽や火消しに走ってもおかしくありません。今回は、当局がなんらかの後押しをしているのかもしれません。もっとも潮目は変わってきているようで、海外華字誌などには(真偽のほどはわかりませんが)当局が本件の報道の抑制に転じたとの記事も掲載されています。軍の”有償サービスの停止”へ既に十分な圧力をかけられた、と判断された可能性もあります。もしくは、世論の反応が当初の予想を超え、国家・共産党批判につながりかねないとの危機感が出てきたのかもしれません。

最近、中国では様々な社会問題が起こっています。国民の生命と財産を守る、という国としての最低限の責務を執政党が十分果たせていない、その現実が色々な形で現れてきているようです。責務を果たせていないということは、果たして意志の問題なのか、能力の問題なのか、その両方なのか、考えさせられるところですが、少なくともそれが構造的問題であり、体制に深く根差しているということは、多くの国民の目にはもう明らかなのかもしれません。

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結局、この問題も近年の他の事件と同様、最終的にはうやむやのまま、葬り去られていくことと思われます。例え関係者の処分が行われても、申し訳程度に現場のクビが飛ぶばかりで、下手をすると刑事責任が何ら問われないままになるかもしれません。(大物のクビが飛ぶのは権力闘争ばかり、との皮肉な見方もあります。)強権、火消し、隠蔽を使った世論コントロールは、一見その場は収まるかのように見えますが、火種はくすぶり続けかねません。実際、ネット民の様々なコメントを見る限り、残念ながら政府に対する不信が却って増幅される結果となってしまっているようです。

最後に、この事件に対する人民のコメントをご覧ください。

→グーグルを支持する、ほんと。バイドゥ―に掲載されているのは、ニセモノが本当に多い

(訳者注:中国ではグーグルは”追い出されて”使えません)

→常州の事件は?

関連記事:
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→土匪がグーグルを禁止して、facebookを禁止した目的は何か、みんなわかってるよ

(訳者注:土匪は共産党を貶めて呼ぶ言い方です)

→武警病院は、名前の聞こえがいいってだけなんだな

→衛生部、軍隊の関係部門の指導者は、引責辞任するべきだ

→富んでいるのは表面だけ、骨はすでに腐乱している

→まだ誰も捕まっていないのか?

→結局、だれも責任を負わないから、人民の権益が保障されない

→武警第二病院一軒だけつぶしても、千も万もまだあるじゃないか

→中国では人命が最も安い

→ワクチン。病院。

関連記事:
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→かつては”人民軍隊は人民のため”、いまは”人民軍隊は人民元のため”

→処分の結果を待つ

→来た来た来た、日本、台湾、香港にお出まし願って、話題をそらそう

(訳者注:最近、”政府は国内問題から目をそらすため、何か問題が起こると反日感情や反台湾・香港感情を煽る話題をタイミングよく出してくる”、と言ったコメントが目につくようになってきています)

関連記事:
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→習禁評、ここのコメント(評論)は消されてないぞ、早く削除しに来い!

(訳者注:近平と禁評は中国語だと同音です)

→中国はどうしてしまったのか。

引用ここまで。

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翻訳元:微博#魏则西事件#


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